Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第967夜

バスで肥後 (前)



 熊本市に行ってきた。
 目的は「特撮博物館」。
 何度か書いたが、宮崎にいる間に九州全県踏破しようという野望があり、その一環。
 移動手段はバス。あとはレンタカーしかない。宮崎から熊本に直行できる列車はないので、どうしても鉄道が使いたければ、鹿児島中央まで特急、そこから新幹線となる。大分経由というのもなくはないが、6 時に出て、熊本着は 13 時すぎである。列車好きの人はたまらないかもしれないが。
 これまでの踏破計画では、福岡はとある試験を受ける目的があったので一泊、鹿児島は日帰りだが、今回は一泊。バスが 3 時間半なのだが、基本的に夜遅くに帰ってくる、ってのが嫌いなのでもし戻ってくるなら 17 時とか 18 時に帰りたい。だとすると、その展覧会見て飯食っておしまい、ってことになるので、さすがにもったいない、と思った。
 おかげで、初日は、県立美術館熊本城、特撮博物館、二日目は上通の書店、というゆったりとしたペースで回れた。

 さて方言なのだが。
 これがまた驚いたことに、ほとんど耳にできなかった。いやマジで。
 熊本ってそうなの? と思って、に NHK の調査を取り上げたときの文章を読み返してみたのだが、基本的に熊本は秋田と同じで「方言は好きだけど恥ずかしい」という方言コンプレックス有りチーム。それはそれで納得性なくはないが、それにしても聞こえなさすぎる。
 が、行った場所が悪いのかもしれない、という気もする。
 つまり、俺にしては珍しくまがう事なきの観光地に行っているのだが、そこは県外人 (どころか国外人) が集まるところだし、美術館にしろ展覧会にしろ人はあんまりしゃべらない。泊まったところは普通のビジネスホテル。お土産を買ったのは、個人商店ではなく熊本県物産振興協会直営の物産館。
 じゃぁ、どこに行けばよかったんだ、という話はあるが。市電には乗りまくったし、上通新市街はうろうろしたんだけどねぇ。
 ということで、本屋で買った『熊本原人』という新書サイズの本の助けを借りることにする。

 熊本県民は「わさもん」である。これは新しいもの好きという意味で、「早生者」と書くらしい。
 また、「もっこす」でもある。由来は分からなかったが、「頑固者」だそうである。初めて知ったのだが、日本三大頑固というのがあって、あと二つは「津軽じょっぱり」「土佐いごっそう」だそうな。誰が言いだしたんだ。Wikipedia によれば、「肥後もっこす」ということが言われ始めたのは戦後だそうだ。
 見栄っ張りでもあるらしい。大皿の上の料理が一つのだけ残るのを「肥後のいっちょのこし」と言うそうな。でも、これを問題にし始めたのって、ここ十数年のことじゃないか、って気がするんだけどどうだろう。
 これは県民性ではないが、男性を「かっこいい」と褒めるときに「むしゃんよか」と言う。これは「武者ぶりがよい」ということで、さすが加藤清正で有名なだけある、という感じがするが、町名にもそれっぽいのが多いと思った。*1
   

 面白いと思った表現いくつか。
さしより」は「とりあえず」。本では「さしよりビール」という例を挙げている。
 大辞泉には「指し寄り」という語があり、「はじめ。最初」という名詞のほかに、「さしあたり」という副詞としての語義も載せている。これだろう。
 球磨郡の常楽醸造という会社では「さしより乾杯」という焼酎を出している。
なんさま」は「何しろ。とにかく」。これなんかは、ちょっと強めに「なんさま!」って言った時、よその人は「なにさま」って聞いちゃうんじゃないだろうか。
あくしゃうつ」がわからない。意味自体は、強い怒りとか呆れ、もしくは諦め、という感じで、一言で説明するのは難しい感覚のようだ。どうやら「あくしゃうつ」らしいのだが、「あくしゃ」がなんだか不明。「悪性」という記事はいくつか見つかった。

 前半はここまで。



*1
 あと、都電の終点は「健軍町 (けんぐんまち)」。(
)





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