Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第910夜

GW と TPP



 今年の GW は、連続した休みが四日しかない。大企業なんかではそれでもつなげた休みにすることがあるが、さすがに三日も休みを追加するのは難しい、ということで評判が悪かったようだ。俺個人としては比較的よかったように思う。

 前半は、東京に行ってミュージカル「アニー」を見てきた。「お前が『アニー』?!」という向きもあろうが、これはひとえに浅香唯がミス・ハニガンとして出ているからである。でなかったら一顧だにしなかったはずだが、まぁ、楽しかった。年をとったせいか、子供たちが笑顔で頑張ってる姿を見るとそれだけでうれしくなってくる。ミス・ハニガンは憎まれ役なんだが、憎み切れない感じがあるのは、やっぱり「アメリカ製の子供向け作品」だからであろうか。浅香唯のキャラもあろうが。
 上京の場合、めったにないことだからって色々とイベントを詰め込むのだが、先週、書いた通り、帯状疱疹を発症していたので、無理はしない方がよかろう、ということでミュージカルと映画二本、つまり、座ってればいいものだけ、合間に本屋巡りという大人しいスケジュールにせざるを得なかったのが残念。尤も、その反動か、買い込みすぎて荷物が重くなってしまったのは誤算だったが。
 後半は家族で横手行ったり料亭で石焼食ったり。実家の自分の部屋の片づけもあったりして微妙に忙しかった。
 そんな中で拾った言葉の話題。方言濃度はいつにもまして低い。

 横手行の目的は旧雄物川町にある「なをこそば屋」という店の「ホルモン中華」。何かっていうと文字通りで、ラーメンに煮込みホルモンをぶちこんだもの。聞くところによると、ラーメンを食ってた客が、隣の客のホルモンを見てうまそうだと思い、ラ一メンの器にそのまま入れてくれ、と言ったのが発端だとか。結果的に濃厚なスープでありなかなかにうまかった。常連は「ホル中」と呼ぶようだ。
 運転中に見つけた地名三つ。
「中在家」は読めない。三重で「なかざいけ」と読むところはあるらしい。
「清水川」で「しずがわ」と読むところがあったが、ググってみたら龍泉洞近くにもあるようだ。
 一番驚いたのは、「年子狐」。
ねんねこ」と読むのだそうだ。いや、確かにそうだけど。
 個々の漢字の読み方に無理がない分、逆に当て字っぽい感じすらするのだが、稲荷神社がある由。

 父の疑問。
 TPP やらなんやらで「牛肉」という言葉をニュースで耳にすることが多いが、「鶏肉」「豚肉」は上の種類の部分が「とり」「ぶた」と訓読みなのに、なんで「牛肉」は「ギュウ」と音読みなのか。
 確かに。
 俺の仮説は、牛を食べる習慣はここ百年くらいのもので、鶏や豚よりはるかに新しい。明治期だし、食習慣と学術面での流入が同時だったからではないか、というもの。
 前半が音読みということは「牛肉」は「重箱読み」ということになるのだろうか。この「重箱読み」という単語を思い出すのに一時間くらいかかってしまったのは情けない限りである。「湯桶読み」はすぐに出てきたのに。
 が、帰って調べてみてびっくり。
「肉」の「ニク」って音読みなのである。そうだそうだ。「肉」に相当する和語は「しし」だった。
 つまり、「鶏肉」「豚肉」が湯桶読みであって、「牛肉」はどっちも音読み、漢字語として正当なのは「牛肉」の方なのだった。
 質問は逆転して、なぜ「鶏肉」「豚肉」が湯桶読みなのか、ということになるのだが、重箱読みや湯桶読みは習慣等の問題であって、なんか外的な要因が加わって決まるものではないようだ。
 逆に言えば、「とり」「ぶた」「ギュウ」と呼んでいるからこうなったのであろう、という推測ができる。確かに、「今日は肉が食べたいなぁ。ぶたにしようか、それとも――」に続くのは、「うし」ではなく「ギュウ」のような気がする。俺個人の感覚かもしれないが「うし」はなんだか生前の姿を連想してしまう。食材としては「ギュウ」な感じ。
 スーパーの安売りアナウンスもそうじゃないだろうか。「本日はステーキ肉が安くなっております。ブタ 100g が XXX 円、ギュウ 100g が XXX 円」てな感じで。
 逆に言えば、「ケイ」「トン」は特殊な感じがする。「けいにく」もなくはないと思うが、なんか専門用語、保健所とかが使う語って雰囲気。「とんにく」は全く耳慣れない。NHKの記事によれば東京では昔そう言ってたらしいのだが。
 やっぱり食習慣として新しいからじゃないかなぁ、と思える。

 もっとも「豚汁」という語になれば別。地域差が出てきて、東日本では「とんじる」である。
 Win8.1 の MS-IME は「とんじる」では変換してくれないのだが、つまり Microsoft は西日本的ということか、と思ったら「ぶたじる」でも変換しない。単に辞書がしょぼいだけだった。
「豚丼」を出す外食チェーンがあるが、これを「ぶたどん」と呼ぶか「とんどん」と呼ぶかは店によって違うようである。
 ステーキを豚肉でやった場合に「トンテキ」という言い方があったような気がする。「ブタテキ」はタ行が続いてちょっと言いづらい感じもあるが、これもやっぱり生前の姿を連想してしまって微妙に居心地が悪い。
「肉」とだけ言った時に、関西では牛肉を指す。鶏肉には「かしわ」という呼び方がある。「肉まん」か「豚まん」かなどなど、肉については結構、地域差がある。魚の呼び方が地域によって変わる、というのとは違った性質が感じられるのだが、これもやっぱり大っびらに食うようになって高々数百年、って事情が関係あるような気がする。

 どうでもいいが、俺は牛よりも豚の方が好きである。食う方の話ね。だから、前の文の「牛」は「ギュウ」のつもりで書いている。




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