Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第796夜

あたーりー




 今週は、秋★枝という人のコミックス『的中! 青春 100%』。

 コンピュータの文字では、星を表す記号は「☆」と「★」の二種類があるのだが、これを入力するときはいつもどっちだか迷う。
 特に人の名前に「黒星」ってのは使いづらい様な気がして「★」を入れるのを躊躇するのだが、色が何になるのかは「」「」と、こんな感じで状況によるので、考えてもしょうがないのかもしれない。
 ちなみに Google では、「秋★枝」でも「秋☆枝」でも同じような検索結果になる。Google がよきにはからっているのだと思う。他人の個人情報を集めるだけじゃないらしい。
 なお、このペンネームは「アキエダ」と読む。

 この人の漫画を読むのは初めてだと思うのだが、全く見たことがないわけではないような気がする。おそらくどっかの4コマ誌でチラっと見たのだろう。
 これを買ったのは、表紙の女の子が可愛いから。立派な理由だ。

 舞台は中国地方らしい。どこかははっきりしないが、弓道の中四国大会で岡山に行く、という描写がある。作中、「越智」「橋本」という駅が出てくるが、ザッと調べた範囲では、その地域にそういう駅はない。
 その辺りのとある高校。
 主役の杉本まもるは弓道大好き少年で、嫌いな武将は毛利元就。矢を折るという所業が信じられないから。そういう自己紹介をしたおかげで彼はずっと「毛利」と呼ばれることになる。*1
 もう一人の主役、表紙のコは楠いろは。彼女は弓道経験なしだが、毛利杉本と同時に入部。

 後書きにあるのだが、作品中の言葉は、「山口ベースで愛媛+静岡+わたしの口癖」という感じで作った方言らしく、作者はこれを「造弁」と呼んでいる。
 面白い表現だと思う。
 ちなみにググってみたが、清朝の陶器工房「造弁処」の記事がほとんどである。
 そんな「造弁」をちょっと。

 人の複数形、「たち」が「」になっている。「先輩らー」と伸ばす形が何度も出てくる。これが西日本の雰囲気をかもし出す。
 ほかには、「ないから」の「ないけー」、「寒いから」の「寒いけー」、「しようよ」の「しようやー」がそういう効果を与えている。

 うまいと思ったのは「ぶり」。これは強調の語らしい。
 大阪から九州北部にかけて、「ばり」とか「ぶち」とかいう語が使われているが、これのバリエーションと言うことになるのだろう。
ぶり寂しい」「ぶり調子えぇ」という表現が出てくる。

 わからないのは「」「ほい」。
」の方は、「こんな部活で楽しいほ?」「今好きなひとっておるほ?」という使い方なので、おそらく大した意味は担っておらず、調子を整えるか、疑問形であることをしめすためのものかと思うのだが、「ほい」の方は、「これまでテキトーにやってきたほい/引退前だからってちゃんとやるほうが、真面目にやってきた人に失礼かな」「日頃と変わらず撃っちょるほい当たるんよ」という具合で、「〜のに」という意味なんだと思う。
 これは、「造弁」のときに出てきた作者の口癖に相当するんだろうか。

 という具合に、わからない言葉 (おそらく正確なところは作者にしかわからない) の文章を読んでると、「先輩らーと一緒やと勉強かったのう」にも反応してしまう。
 これは、先輩達にとっていじられキャラである毛利が、試験前に先輩達に勉強を教わろうとしたが、成果が上がらなかったときに言う台詞。
 これは方言ではなく、「勉強にならんかった」の「にならん」が抜けてるんじゃないかな。

 弓道部の話なので、専門用語も出てくる。
「ギリ粉」は、弓を引く方の手*2の指につける粉で、松脂を煮詰めてすりつぶしたもの。指がスムーズに離れるようになるらしい。弓を引いたときの「ギリギリ」という音からついたんだとか。
 的に命中した場合、観戦者 (同チームだけ?)が「射 (しゃ)」と叫ぶ習慣があるそうな。
「学ジャー」という語も初めて聞いた。「学校指定のジャージ」のことらしい。

 帯に「ふまじめ先輩×熱血弓道野郎」とあるとおり、毛利が先輩らーにいじられる一年の物語で、そこにいろはとの関係 (あるんだかないんだか) が加わり、くすくすと笑いながら読める。一月発売だが、書店によってはまだ平積みになってるところもあると思うので、是非。




*1
 最終回でも、新入生に「毛利先輩」と呼ばれている。 (
)

*2
 馬に乗っている場合、右手で手綱を握り、左手に弓を持つので、右手を「馬手 (めて)」、左手を「弓手 (ゆんで)」と言う。 (
)





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