ビールとか検定とかキティとか、「ご当地」ものが大流行の昨今だが、こんな本もある。
『
ご当地回文 (中田芳子、太田出版、2008)』
回文を知らない人はいないだろう。前から読んでも後ろから読んでも同じになる文のことである。
ただし、詳細については説明が必要か。
一般的に、濁音の有無と、促音 (「つ」と「っ」)、拗音 (「やゆよ」と「ゃゅょ」) は区別しないことになっている。したがって、「テレビ」を逆から読む場合は、「痺れて (しびれて)」の一部としても、「鰭で (ひれで)」としても使える。
想像するまでもなく難しい。
それを全国の市の名前についてやったのがこの本。
市だけで 783 あるのに、ところどころに漫画つきの回文とかもあって、エラい数である。
あんまり紹介すると営業妨害になってしまうので厳選しなければならないのだが、観光キャッチフレーズとしてそのまま使えそうなのが少なくない。
秋田では:
男鹿市が繋ぐ、懐かし顔。
なんかどうだ。
偶然だろうが、秋田県内の市は概ねよいイメージの文になっている。
中には、地元の人が聞いたら怒るんじゃねぇの、ってなのもある。紹介しないけど。
ナマハゲのことを「鬼」と言っているのは間違いだが。
実際問題としては、ご当地性の高い文はそんなに多くない。全然、関係ねぇじゃん、というのが一杯ある。かと思うと、ドンピシャのもあって:
突破だッ、藤井寺で意地。振ったバット
往年の野球ファンは泣けてくるのじゃないか。
さて、ここは方言の文章を書くところである。
しかしながら、残念なことに、ご当地ものでありながら、方言は全く出てこない。
いや、「全く」というのは嘘で、方言っぽい言い回しは出てくるのだが、それはその市と関係ないのばかり。どちらかと言えば、回文を作るために使った非標準的な形という位置づけである。
特に、漫画つき回文に多い。
岩手のところで、わんこそばを取り上げているのだが、御椀にソバを投げ込んでいるおばさんが言う。
頑張らはんか
意味としては「頑張れ」「頑張らんか」なのだろうが、こんな言い方はしない。ちょっと色々と語を変えてググってみたが、「〜らはんか」という言い回しは見つからなかった。
そういう意味では「〜ぜ」という語尾が何回か登場する。「〜ぜよ」であれば坂本龍馬というところだろうが、苦肉の策ってあたりだろう。
尤も、東歌には「言葉ぞ」が「
けとばぜ」という形で出てくる。会話が擬古文になってることもあるので、そう考えれば無茶とも言えないか。
一番、方言色が濃いと思ったのは、滋賀県の高島市。
聞き手増し、語り部は減り、高島で聞き
民話の語り部のことらしい。
というわけで、方言にからまず、かつ、あれこれ紹介するわけにもいかないので一向に話が盛り上がらない。
で、ちょっと周辺情報をと思ってググってみたら、
ホームページあるじゃん。しかも、全作公開されてるじゃん。
おいおい…。
というわけで、今回はあっさり撤退することにする。
最後に、いくつか紹介。
この本の中のベスト:
神戸は兵庫
*1
過去に見た作品の中で、最も優れていると思う回文:
ロダンてさっきの喫茶店だろ
俺の自作:
地味も好き。老いた時代を記す紅葉。
お粗末。
回文と方言でググるとそれなりの数が見つかるので、暇な方はどうぞ。