Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第435夜

スウィングすっぞ



 それにしても映像ソフトは安くなった。
 昔は 60 分で 2 万とかしてたのに、今じゃ 2 時間の映画が 5 千円で買える。ものによっちゃ 1,500 円なんてのもある。おかげで映画製作の採算は大変らしいんだが。
 去年の秋にとりあげた「スイング ガールズ」の DVD が出た。
 3 枚組の「プレミアムエディション」というのを買った。本編のほかに、メイキングやらキャンペーンの様子やら。これで、\9,800-
 大人になると、メイキングってなかなかに楽しめる。プロジェクトってこうやって進んでいくんだ、という見方もできるし、本気の人たちのぶつかり合いというのも見ることができるし。
 ゴダイゴ者として、かつピアノ レッスン受講中の者としては、音楽も気になる、ということでこの 3 枚組にしたのだが、残念ながらミッキー吉野は登場せず。アレンジや指揮、登場人物のレッスンをした岸本ひろしと山口れお、倉田俊太郎の 3 人が映画に顔を出していたことは、これを見て知った。

 矢口史靖監督 (神奈川出身) は当初から東北ということを考えていたそうだ。
 で、青森から見て回って、東北弁っぽく、かつ、耳で聞いてわかるところ、ということで、最初は山形市で行こうとした。山形市出身のアナウンサー (映画冒頭で登場する) に翻訳をやってもらって一度は台本が完成したのだが、「読んでも、何を言っているのかわからない」という意見があって破棄、さらに南下していった結果が米沢市だった、とのこと。
 監督と、今、大騒ぎのフジテレビの武田祐子アナウンサーのやり取りがほんのちょっと流れるのだが、「修理してけんのねっけの?」で、確かに、秋田出身・山形出張経験のある俺でもわからない。「修理してくれるんじゃなかったのか?」だそうである (と言えば、映画を見た人にはどこのシーンだかわかるであろう)。
 つまり、監督は (比較的) リアルに行こうと考えていた、ということだ。
 その結果があの作品なわけだが、どうなんだろう。俺は、ニュアンスも含め、割とわかった (つもりでいる) のだが、例えば、西日本の人なんてわかったのかしらん。
 ただ、改めて振り返ってみると、文法的にはともかく、固有の単語ってあんまりなかったような気もする。だとすれば、表情込みで見てるとわかるのかな。
 DVD に付属のブックレットには、数ページの米沢弁一覧があるが、その多くが劇中では使われていない。

 尤も、近いからってわかるとは限らない、ということは何度も書いたような気がする。
 東北方言は、山形と宮城の真ん中辺りを横断する感じで南北に分かれる。つまり、米沢は方言区分としては東北南部、秋田は北部で、そこははっきりと違うわけ。秋田弁と津軽弁より、秋田弁と米沢弁のほうが違いが大きい。
 昔、浅香唯が「AD ブギ」に出演したとき、熊本出身という設定でやった、という話を聞いた。ビデオは中古が手元にあるんだがまだ見てない。宮崎・熊本で、隣じゃん、というのは大間違いで、相当に苦労したのではないかと想像する。

 平岡祐太はブックレットの中で、芝居がこなれてくると、いや、こういう気持ちでこの台詞を言いたいんだ、と言うと、イントネーションが変ってしまう、と述懐している。

 貫地谷しほり演じる斉藤良江は、恋多き乙女という設定なのだが、そういう相手と話をするときは標準語になる。平岡祐太の中村拓男が、全員に呼びかけるシーンもそう。拓男を怒鳴りつけたりする高橋一生の吹奏楽部の部長は標準語。その辺の使い分けも割とリアルだった。竹中直人の先生と話をするときとか。
 そのあたりの線は、方言使用者でないと感覚的につかめないところだと思う。大阪では、授業中も大阪弁ベースで発話が行われるそうだし。
 誰が決めるんだろう。方言指導の眞島秀和? 彼の意見を聞いて監督が決める、ってあたりか。

 あんなもの米沢弁じゃねぇ、という意見はなかったんだろうか。
 もし登場人物たちの言葉が、現在の置賜の高校生達の言葉を正確に表現していたとしたら、それは、伝統的な方言とは違っているはずである。そこに難癖をつける人はいなかったか。
 彼らの言葉がわかりににくくはなかったんだとすれば、それはひょっとしたら、かなり正確だったからかもしれない。部外者なので、ちょっと判断できない。

 上野 樹里は大阪出身である。メイキングのインタビューでは、イ段・ウ段が無声化しない関西方言の特徴が確認できる。

 ところで、中心メンバーが 20 人もいると、貫地谷とか本仮屋とか、珍しい苗字も出てくる。
 はっと気づいて調べてみたが、かの有名なパントマイム グループが「貫地山」なのかどうかは確認できなかった。

 秋田だって映画撮影されてないわけじゃない。
釣りバカ日誌」もやったし、ちょっと古いところでは「大往生」なんてのもあった。秋田弁が炸裂しているはずである。
 時代劇だが、「たそがれ清兵衛」とか「隠し剣 鬼の爪」は角館で撮影されている。
 どれも見てないけど。
 管轄外なんだよなぁ。分野として。

 ピアノのほうなんだが、一度、レッスン曲として“Moonlight Serenade”を持って行こうとしたことがある。諸事情により落選したが。最近、ジャズっぽい方に傾いているのは、やっぱりこの映画の影響なのかなぁ。
 今年は 6 月と 8 月に発表会があって目下大騒ぎ中。その辺は別館の“Piano Pinion”で。





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