Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第418夜

地名の愛称と愛着について



 冬だ。
 今年の初雪は 11/29 だった。ニュースになってなかったが、気象台で降らなかったか、ほんとはとっくに降ってたかのいずれかであろう。
 季節感のない生活をしているので、平年がどうなのか知らないが、以前、土崎 (つちざき) に派遣されていたときは、もっと早かった。11 月末までの契約だったのだが、何回か雪に降られながらホームで列車を待っていたという記憶がある。

 さてその土崎。
ザキ」という略称があることを思い出した。
 正確には「キ」も濁点つきなのだが。“Zaghi”あたりが近いかな。
 単純に地名としてだけでなく、土崎のみなと祭りは「ザギの祭り」などと呼ばれたりする。
 ほかに略称はあったかなー、と思っていろいろと考えてみたが、思い浮かばない。土崎だけのようだ。

 土崎の特徴は、都会だということである。
 前に、以前は「土崎港町」という町だったということを書いたが、つまり、港湾都市だったわけ。花街もあったらしい。
 だが現在の秋田市はいくつもの町村を吸収して成立した大きな市で、なにも土崎だけがそうだというわけではない。そこでちと調べてみた。Wikipedia の「秋田市」によれば、これだけある。
牛島町、川尻村、旭川村、土崎港町、寺内村、広山田村、新屋町、太平村、外旭川村、飯島村、下新城村、上新城村、浜田村、豊岩村、仁井田村、四ツ小屋村、上北手村、下北手村、下浜村、金足村の一部
 それぞれに、あぁあの辺ね、ということが思い浮かぶ程度の独立性はあるが (あ、広山田村がわからない)、それの略称がある、というのは見当たらない。
 個人的に、それぞれの町役場や村役場は一体どこにあったのだろう、というのは興味がある。逆に言えば、それが想像できない程度に寂れているか、現在の秋田市の市街地が複数の旧町村をまたぐかたちでベラーっと広がっていてそれぞれの中心を飲み込んでしまったかのいずれかであろう。

 俺の実家は、隣の河辺郡河辺町にある。最寄駅は奥羽線の和田駅。どれくらいの距離がある「最寄」なのかはさておき。
 河辺町は現在、人口一万人で、1/11には、同じ河辺郡の雄和町と一緒に秋田市吸収合併されてしまうのだが、この和田駅前に昔、映画館があった、ということを聞いて驚いた。
 勿論、人口が今よりも多かった、ということもあるのだろうが、おそらく、隣の自治体である秋田市は、今よりももっと遠かったのだろうと思われる。
 というわけなので、駅の所在を手がかりにしてみると、奥羽線の秋田市より北側 (「奥羽北線」と呼ばれる) は土崎・上飯島・追分、奥羽南線は四ツ小屋、羽越線が羽後牛島・新屋・桂根・下浜。どれも略称はない。
 羽後牛島駅があるのは牛島という地域だが、これは地名が省略形なのではなく、駅名の方が冗長なのである。牛島という駅が徳島にあって、こっちに「羽後」がついている。

 行き詰まったので、他所に目を転じて見る。
 あった。
 池袋が「ブクロ」、吉祥寺が「ジョージ」、下北沢が「シモキタ」、高田馬場が「ババ」。
 特徴を持った町であると同時に、名前が長い。
 秋田に戻ってくると、県内の市はほとんどが短い。「のしろ」「おが」「かづの」「よこて」「ゆざわ」。
 秋田弁はシラビーム方言であるため、「大館」「本荘」は「おだで」「ほんじょ」に近い。
 辛うじて長いのは「大曲 (おおまがり)」だが、これは「おまがり」にはならない。

 つまり、「○○さ行ぐ」と言ったときに、まぁ特別の関心がある場合を別にすれば、「何しに?」とか「○○?!」とかいう反応が返ってこない程度の特徴を持ち、なおかつ、名前が長めの場合に略称が生まれる、ということであろう。
 きっと、住人にまけず劣らず、その町にやってくる人も多い、ということが肝だと思われる。新興住宅地は、住人はやたらに多いが、町の訪問者はそんなにいないはずで、そうなるとおそらく略称は生まれない。「でんえんちょうふ」は成立して随分と経つが、略称は聞いたことがない。あったら教えてください。
 なので、「大曲」の場合は、周辺町村に住む若者達がなんと呼んでいるかを聞いてみたいところではある。

 能代市は、奥羽本線が通っているが、「能代駅」は五能線の駅ではあっても、奥羽本線の駅ではない。奥羽本線は「東能代駅」である。聞いたところによれば、馬車の組合が市の中心部を鉄道が通るのに反対したからなんだそうだが、能代の人の中には、東能代のことを単に「ひがし」と呼ぶ人がいるそうである。これなんかは、上の条件に合致している。

 同様の複雑な事情は鹿児島の「西鹿児島駅 (今は『鹿児島中央駅』)」、福岡の「博多駅」にもあるらしい (「福岡駅」は富山にある)。
「西鹿児島駅」は、鹿児島駅に対して、「西駅」と呼ばれていたそうだが、それはどうなっただろう。「西駅」だけが残ってたりしないかな。

 地名というのはどうにも重要なものらしい。
 能代山本の合併後の名称はまだもめている。
 例の「白神市」で住民投票が行われたのだが、能代市民は「白神市」がまずいと考えているのではなく、「能代市」にしたいのだった。どうあっても隣の町村を従えたいらしい。
 NPO の方も署名簿を提出したりしているようだが、白神山地は世界遺産に指定される前からあったんだということにまだ気づいていない。
 合併協議会では、協議会の決定は重い、とふんぞり返っている。

 どうせなら全県を 5 つ位に割るというのはどうだ。現在の秋田市は解体、山王 (さんのう) 地区を県庁所在特区かなんかにすると、ワシントン D.C. っぽくてかっこいい。
 で、能代山本を「白神秋田市」、大館周辺を「十和田秋田市」、鹿角から田沢湖を「八幡平秋田市」、南秋を「栗駒秋田市」、由利を「鳥海秋田市」にして、近隣全県とケンカするわけだ。とりあえず活気は出るであろう。




補足
 先週に引き続き、DYO 氏からの情報。
 地元の人はあまり、「ザキ」とは言わないようだ、とのこと。
 大曲については、「まぢ (町)」ではないかという意見。ありそうだ。




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