Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第374話

カニ



 もしスケジュールが急変していなければ、俺は夕べ、カニを食っているはずだ。
 なんでも、親が、高級なカニの購入券を持っているのだとか。それはカニそのものではなくて購入券で、かつ到着したらすぐに食え、という代物らしく、食う日の 1 週間前に注文しなければならない。つまり、予定を決めておく必要があるわけ。
 俺ってカニはあんまり好きではない。嫌いではないが、「カニ食べたーい」とは思わない。
 理由は簡単。面倒くさいからである。
 前に、社員旅行で函館に行った。夕食はカニの食い放題だったのだが、トゲやら毛やらで手から血を流していることに気付いて悲しくなった。なんで、飯食うのに流血沙汰にならなきゃいかんのだ。かと言って、鋏ってのもなぁ。飯食うのに鋏?
 誰かが身だけを俺の前に並べてくれれば喜んで食うであろう。

 まずは秋田で、「ガニ
 ただ、全国に多い。「ガネ」というのもある。
 ほかに、ガンチョガンツーカニンベイガンジイガンゾンガニドノなどなど。これは「ガニ」と同じで「カニ」の変形か。それぞれどこの言葉かは割愛。
 個別のカニだと、「アカベンチョー」は、鳥羽の言葉 (→鳥羽市立答志中学校のページ) で、「赤爪蟹」。赤爪蟹がどういうものだかは、俺は知らない。
おいだけ・方言集」にもいくつかある。「ヤマタラウ」は「もくず蟹の大きいもの」だそうだ。その大小は、それで生計を立てている人にとっては重要なことだ。
 最後に、「三大蟹」。
 北海道の言葉で、ケガニ、タラバガニ、ズワイガニのこと。それにしても「三大蟹」とは大きく出たな。確かにデカいけどな。

 タラバガニが、鱈の取れる場所で見つかったから「鱈場蟹」で、実はカニではないことは有名か? ヤドカリの仲間だそうだが。ハナサキガニもだとか。
 ズワイガニは「楚蟹」と書くそうだが、「ズワイ」がなんだかは不明らしい。
 ところで英語では、タラバガニは“king club”、ズワイガニは“queen club”だって。ウルトラマンAには「キングクラブ」って超獣が出てくる。

 近いからエビも、と思ったが、俚言形が見当たらない。「イビ」とかいうのはあるんだけどさ。なんで?
 しょうがないので文字のトリビア。エビには「蝦」「鰕」などと「海老」という字があるが、「海老」というのは「イセエビ」のこと。
 と聞いたのだが、いまいち信憑性がないので改めて調べた。歩くのが「海老」、泳ぐのが「蝦」だそうだ。歩くエビの代表が伊勢海老、と。
 いずれ、「伊勢鰕」とか「桜海老」とは書かないわけ。

 ザリガニには「マッカチン」という形がある。「エビガニ」というのは有名か。岡山の御北小学校のページに寄れば、「トーチカ」という形があるらしい。
 ところで「ザリガニ」の「ザリ」って何? 「躄/膝行る (いざる)」か?

 この数の差はなんだろう。
 子供かなぁ、と思ったのだが。サワガニやザリガニは子供が取るものだ。だが、蝦を取った、という話はあんまり聞かない。川蝦あたり、ないことはないだろうが、頻度、量、回数としてやっぱりカニなのではないか。

 シャコなんてのもあるな。「蝦蛄」と書くそうだ。
ガサエビ」「ガネシャッパ」「シャッパ」などというのがある。
 食う地域はそれほど多くないらしいが、青森にいた頃は割と頻繁に食ったような気がする。茹でた奴で、そのまんまの形で出てきてたような。人によっては、グロい、と思うかもしれん。違う意味で、食うところはあんまり無い。寿司では食ったことがない。高級ネタだそうだが。

 そういう事情だから、エビは割と好きだ。殻ごといけることは多いし (そういうのならカニも OK)、いけないやつでも、尖ってはいないから、それを剥いてて流血沙汰って事もない。ロブスターをフォークとナイフで食え、と言われたら困るだろうな。
 前に、定食屋で味噌汁にエビの頭が入ってたことがある。身はなくて本当に頭だけなのだが、ほんのりとエビの香りがして、結構、幸せな気分になれた。
 食い物の幸せってそんなんでいいと思わないか?
 グルメは人生を貧しくするぞ。





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