相当に前のことだが、たまった漫画雑誌をちりがみ交換に出したら、その多さに「
ひょっとして漫画家さんですか」と聞かれたことがある。確か 4〜5 年分だったので、まぁ、驚かれるのも無理はない。
買う漫画雑誌はその頃をピークに減り始める。もう理由ははっきり覚えていないが、買っていた雑誌から、俺の好きな漫画家の連載がなくなったのが原因だったと思う。そういうのが一つあると、他のも「これはひょっとして惰性で買っているのではないだろうか」という風に思えてきて、次々にやめていくことになる。次々、という程、多くはなかったが。
二度目のピークはその 5 年後くらい。バブル崩壊前後。
今度は、4 コマの雑誌を買うようになった。
芳文社の「まんがタイム」のシリーズである。気楽に読めるものだが、中にはうーんと唸らされるものや心がふんわかしたりするものがある。1 冊 で 20 人を超える作家が書いているので、非常にバラエティに富む。
ストーリー漫画に飽きた、というのもある。特にいわゆる少年誌。千年一日。ハチャメチャとバイオレンスとメカしかないんだもの。
「まんがタイム オリジナル」「まんがタイム ファミリー」「スペシャル」などのバリエーションがある。一時、それを全種、買っていた。それぞれは月刊なのだが、6 種類もあるので、5 日に 1 回は買うことになる。そうなると追いつかなくなる。読んでない雑誌が積み重なるようになって、「これは何かが間違っている」と気づき、淘汰されていった。目下、「
まんがタイム ラブリー」のみ。後は、中を見てから決めている。
読んでいると不思議なことに気づく。
方言がポロっと出てくることがあるのだ。
こないだ、おーはしるい氏の「会計チーフはゆーうつ」という作品で、「
へずる」というのを見つけた。これは、「削る」「減らす」という意味。
前後が共通語ベースの会話なのに、そういう単語が突然、出てくることがある。これはストーリー漫画では見られない現象である (と断言できるほどの調査をしたわけではないんだが)。
まず、「
へずる」の使用範囲を確認しておく。
これが、実は広い。秋田・岩手・福島・埼玉・広島・島根・徳島・福岡と並ぶ。
「
沢胡桃」の「
新人の沢用語」によれば、「剥る」と書くらしい。田舎に残存している古形か?
この漫画の舞台は確か千葉で、「
へずる」の使用地域ではない。大体、千葉の言葉なんか今まで出てきてなかった。
おそらく、おーはし氏がそうした地域の出身なのだと思われる。
疑問なのは、編集部がなぜこの「
へずる」を通したか、である。
真っ先に考えられるのは、誰も気づかなかった、である。
「
へずる」を検索エンジンで探してみるとわかるのだが、どうやらこれが方言形だということに気づかないで使っている人がいる。
しかしまぁ、まんがタイム ラブリー編集部の大きさは知らないが、全員が気づかない、というのもちと考えにくい。
ずいぶんと前にも書いたような気がするが、作家の持ち味としてそのまま通した、という可能性もある。こういうことって割と頻繁にあるからである。
ものが漫画だから、知らない単語を使っても、どういうことだかわかる。今回の場合、苛立ちのあまりに、机をボールペンでガリガリとやっている絵があって、「
机へずってるよ」という台詞なので、「
へずる」が「削る」の意味らしい、というのはわかる。
だから、程度問題ではあるが、作家の言葉遣いがこぼれてもそれはそれでもいい、ということは言える。
次に考えられる怖い可能性は、単なる誤植だ、というもの。
「さいまいも−さつまいも」事件もあることだし、“hezuru”−“kezuru”という入力ミスはありそうだ。
ただこれも、編集部の校正を通っちゃったんだろうか、と考えると疑問は残る。
俺としてはやはり、持ち味説を採る。
ただ、「その言葉遣いは絶対に間違ってるぞ」と思うことがある、ということは、読者の愛として書いておく。「お茶とお花をたしなめる」とかいうのが記憶にある (おーはし氏ではない)。
「
へずる」では、登山関係のサイトがいくつかヒットする。それがまぁ、全く説明なし。その世界では一般的な単語なんだろうし、登山を全く知らない人を読者として想定してない、ってことなんだろうけど、意味を理解するのに一苦労だった。「
へづる」にすると、解説文がひっかかるのはどういうことだろう。