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Shuno の方言千夜一夜
第306夜
街 (後)
住友生命
のアンケート「あなたの『ふるさと』を漢字一文字で表現すると…(→
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)」の話を続ける。
やっと方言だ。
アンケートには、好きなふるさとのことばを挙げろ、という質問もあった。
同様の企画は NHK の「ふるさと日本のことば」でもあったが、「ありがとう」に代表される「プラス イメージ、ポジティブな意味の単語」の羅列に終わっていた。それは、そういう現象なり心理なのが好ましいのであって、その地域を表現してはいないだろう、ということを前に書いた。
この調査はそうではない。
例えば、北海道東北では、トップこそ「
めんこい
」「
おばんです
」だが、「
んだ
(そうだ)」「
なまら
(とても)」「
しばれる
(寒い)」と続く。中部で「
やっとかめ
(ひさしぶり)」「
ごしたい
(疲れた)」、北陸「
だら
(あほ)」、九州「
よだきい
(疲れた)」という具合。トップ 5 しか載っていないが、割にバラエティに富んでいる。
「
なまら
」は北海道方言である。これが 4 位に来る辺り、やっぱり人口比だな、と考えざるを得ない。なにせ、「北海道東北」と括った場合、全人口の 1/3 は北海道民なんである。偏らないわけがない。
*1
「
めんこい
」がダントツなのは、使用範囲が広いからだろう。秋田なんかでは「
めんけ
」なのだが、改めて尋ねると (つまり、文体がちょっと上がると)、標準語形に近づけた「
めんこい
」という形が帰ってきそうな気がするがどうだろう。
関東は「
だべ
」「
だっぺ
」「
じゃん
」「
だんべ
」と語尾が並ぶ。なんと言おうと東北と地続きなんだ、ということを確認していただきたい。5 位は「
だいじ
」。前にも取り上げたが、「大丈夫」の省略形である。調べてないけど、地域的方言、ということになるんだろうかねぇ。
が、ダントツは「標準語なので無し」。371 人、33.6%.
これをどう見るか。関東の 1103 人中、東京都 (23 区) 出身者がどの程度か分からないが、自分が方言話者だとは思っていない首都圏民は東京都民に限らないはずで、この数字は、意外に少ない、と見るべきなのではないか。やはり、そういう人はこのアンケートには参加しなかったのだろうか。
あるいは、俺が「『
だいじ
』は方言か?」という保留をつけたのと同じ理由で、自分達の使っている表現をあちこちで目や耳にするため、地域的な方言である、と断定する、または、自分の感じることができないのかもしれない。
近畿の「
なんでやねん
」はよくわからん。「笑」を挙げてあるくらいで、ある意味では、大阪をよく表しているとは思うが、これ「好きなことば」なの?
「好き」と言えば、「
好きやねん
」があがっている。キャンペーンの成果か。
これと似ていると思われるのが、九州の「
とっとっと
」。「とってます」、つまり「確保しています」ということなのだが、これは、九州 (博多?) 弁を面白おかしく説明するときによく使われる表現である。それに乗ってるだけじゃないか、って気がするのだが。
漢字に戻る。
全国データを見ていくと、「山」「海」「田」「緑」「雪」「川」「畑」「水」と自然物が並ぶ。つまり、どうやら「ふるさと」は「自然」でなければならないものらしいのだ。前に、自治体のキャッチフレーズを並べてみたことがあるが「水と緑」のオンパレードだったことを思い出す。
*2
それを言ったら気の毒なのが都市出身者である。東京は「街」「都」「家」と人工物が並び、「母」や「祭」はいいとしても、全国的な傾向と真っ向から衝突する。9 位の「騒」に至っては、涙を禁じえない。
「街」は、全国で 42 票のうち、東京が 17 票、大阪が 9 票。後の 16 票はどこだろう。
「友」は、全国で 68 票。東京 5、神奈川 4、三重 3、宮崎 3、佐賀 3、福岡 7、長崎 3.
「懐」は、全国で 102 票。茨城 5、東京 5、三重 3、大阪 11、兵庫 4、広島 5、福岡 7、大分 3、長崎 3、沖縄 2.
と人工物 (人間の存在が前提となるもの) と、この種の質問に対する答えとしてはジェネリックすぎる「懐」を並べてみた。
お気づきだろうか。白河以北は一つも入っていない。北海道東北では、「家」が辛うじて北海道の 8 位、宮城の 7 位に入っているだけなのである。
邪馬台国が九州にあったのか近畿にあったのかは知らないが、現在の日本の体制は西日本ベースで始まっている。したがって、開発も西から進んでいる。東北は自然の宝庫だ、というようなことが言われるが、それは開発が遅れていることの裏返しである。
で、いささか意地悪な見方になるが、「ふるさと」は自然物でなければならないのだが、関東以西では自然物そのものを見出し難い、そのため、人に「ふるさと」を見出さざるを得ない。そういうことではないのだろうか。
いや勿論、「俺のふるさとはこれだぁ!」という強烈なものを持ってはいても、「漢字 1 字」では表現できない、という人も、かなりいたのではないか、という気はする。
しかし、これだけ自然破壊しまくって、緑あふれる村を捨てておいて、今更「ふるさとは水と緑」なんて、虫が良すぎやしないか? 「街」とか「騒」とか言う東京出身者の方がまだ素直だ、と思うのだが。
*1
残りの 1/3 を宮城と福島で、最後の 1/3 を青森・秋田・岩手・山形で分け合う。
↑
*2
「田」も「畑」も人工物だが、「緑」ってことで、ここでは便宜的に自然物にくくる。 「祭」は紛れもない人工物だが、これはどこにでもあるもので、地域的特徴が見出し難いので除外した。
↑
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