Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第304夜

BLUE PLANET



ウルトラマンコスモス 2 -BLUE PLANET-」を見た。
 本来は 8/3 公開なのだが、秋田は松竹直営の劇場がないせいか、8/31 からだったのだ。子供達の夏休みはもう終わっている。
 ファンとしては、ちと不完全燃焼である。なんか、描こうとしたものを貫けてない、という感じがする。異質なものとのコミュニケーション/ディスコミュニケーション、それを「信じる」ことができるか、というあたりがポイントだったのだろうが、新しいウルトラマン (ジャスティス) の登場を描いたために、戦闘シーンが妙に長い。それでぼやけてしまったのかなぁ。
 ここで襲われたのは北九州市である。小倉駅なんかが派手に崩壊する。それにしてもでかいなぁ、小倉駅。
 逃げ惑う市民。泣いている子供。
 この子が方言形でしゃべっていた。「コスモス、来るんよね」とかなんとか。正確なところを忘れてしまった。もう一度、見に行かなきゃ駄目かなぁ。

「青」は、特撮界においては重要なキーワードである。
 サブタイトルでも「バラージの青い石」「プロジェクト・ブルー」「赤と青の戦い」とすぐに出てくる。「青い空」「青い海」など、自然を象徴する色だからであろう。ウルトラマンが銀と赤なので、それとの対比で悪い奴の象徴として使われることもないではないが。*1
 自然といったら「緑」も忘れてはいかんと思うのだが、これがなぜかあんまりない。「仮面ライダー」「同 V3」「同 アマゾン」「仮面ライダー (スカイライダー)」「サンダーマスク」と「秘密戦隊ゴレンジャー」の色別戦隊シリーズくらい。円谷系では、アクセントはともかくメインの色としては、今にいたるまで一度も使われたことがない。
 これは発色のためだと思われる。
 科学特捜隊のユニフォームは派手なオレンジ色だが、これは当時のフィルムやテレビの発色と、ほとんどの受像機が白黒だという現実を考えてのことらしい。ウルトラ警備隊は地味な灰色だが、これは円谷 英二にえらく怒られたそうである。
「仮面ライダー龍騎」では 2 種類の緑色のライダーが出てくるが、それができるようになるまでに、30 年分の技術の進歩が必要だった、ということである。*2

 色には秋田弁特有の形がない。
 形容詞形では、「しれ (白い)」「くれ (黒い)」「あげ (赤い)」と形の違っているものはある。これだって、後から二番目の音が母音だと形が変らず「青い」のままである。秋田弁では「あえ」などとはならない。
 特徴的なのは「だ」か。
 色は形容詞 (「赤い」) か形容動詞 (「真っ赤な」) である。上にあげた「い」で終わる基本的な色以外はすべて形容動詞――というのは嘘で、実は大概は名詞である。
 例えば大辞林で「緑色」「茶色」などを引くと名詞になっている。辛うじて「黄色」が「名詞・形容動詞」だが、「黄色い」だから形容詞じゃないのか? 「茶色い」もだが。ただし、「緑色い」とも「緑い」とも言わない。
 早くも混沌としてきたが、秋田弁ではすべて形容動詞として扱われる。
「黄色な花」は正しいのか間違っているか微妙な線だと感じられるだろうが、「緑な葉」は間違いであろう。
 秋田弁では、これに相当する「黄色だ花」「緑だ葉」は正しい表現なのである。これだけでなく、イで終わる「赤」「白」「黒」もこの形で使える。

 話を進める前に、整理してみる。
形容詞
赤-い
青-い
白-い
黒-い
?黄色-い
?茶色-い
上記以外で、「色」を伴わずに色であることを示すことができるもの


*3
文脈無しでは色を指しているかどうか判断できないもの




 俺の記憶では、色には俚言形はない筈である。ことに、基本的な色には。*4
 色彩語は、同じ一言語内では普遍性の高いものなので (原色であれば、地域によって「これは赤だ」「いや赤じゃない」ということはないし、あっては困る)、異なる呼び方が定着して流通する余地がない、ということは言える。
 だが、動植物の呼び方はどうだろう。生活に密着しているものであるだけに、地域によって呼び方が違うと困ったことが生じるはずだ。採った魚を売る、という状況を想像してみると分かる。「サバをお届けします」「これはサバではない」となると商売上がったりの筈だ。だが、魚の呼び方には今にいたるまで俚言形が残っている。勿論、翻訳処理は走っているのだが。

 だが、動植物の場合は、見れば分かる、ということは言える。
 俚言形の例として出世魚を取り上げるなら、「イナダお持ちしましたー」「それハマチちゃうんかい」というわけで、これは一目瞭然である。
 だが、二種類の色を並べて、これとこれは呼び方の同じ色か、ということを、細かくして繰り返していくとじきに区別がつかなくなる。
 逆に、そういった細かい分類を必要とする人は非常に限られる。だが、「イナダ」として出された魚を「ツバス/ハマチ/メジロ」のどれであるかを識別することを要求されるのは、プロ漁師だけでなく消費者の側でも同じである。蕗も「ふきのとう」と「蕗」とでは食べ方が違う。

 ということで、大胆な仮説をぶち上げてみる。
 色って、実は割とどうでもいいのではないか。
 我々の生活を振り返ってみても、赤信号と青信号を見間違うとエラいことになるが、「進め」の信号が「青」か「緑」か、というのが食い違っても命に別状ない。
 洋服を買いに行ったとして、二種類のよく似た色のバリエーションを見つけたとする。どちらを買うかを決めたとき、「この若草色のじゃなくて萌黄色のほうをいただくわ」とは言わないであろう (言う人もいるだろうが)。「こちらにするわ」と言うのではないか。万が一、電話で注文する必要に迫られた場合は、商品の番号で言うか、「濃いほう」とか言うのではないか。
「茶色」が「お茶の色」であるように、色を形容する表現は、臨時に作ることができる。臨時であるだけに、寿命も短いし、通用範囲も狭い。
 これが、色彩語に俚言形がない理由だと思うのだがどうか。

 ウルトラマンコスモスの放映開始当時、真っ青なので、画面に埋没するのではないか、と心配した。昼の戦闘なら青空だし、夜は夜で青黒い背景になる。
 だが、その心配はなかった。ちゃんと見える。見えるどころか、青空を背景に屹立するルナ モードコスモスは非常にかっこよい。
 ということは、コスモスの青と、青空の青とを我々はきちんと識別しているのである。
 このときも「コスモスの青」と「青空の青」と呼べばよい。そういうことである。




*1
 前から、ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンティガ。
 ウルトラマン第一話「ウルトラ作戦第一号」では、怪獣ベムラーは青い光球、それを追ってきたウルトラマンは赤い光球であった。


*2
 仮面ライダーにしろサンダーマスクにしろ、緑色のコスチュームの色が途中でマイナーチェンジされることが多い。緑の発色には微妙な問題があるのだと思われる。


*3
「黄」はいいとして、「紫」には名詞もある。ロックバンドの名前と、醤油の隠語である。
「緑」は難しいところで、「植物」を指す使い方はかなり一般的だ。ただ、緑色でない、つまり枯れた植物を指して「緑」とは言わないような気がする。
 この次の「藍」も微妙か。


*4
 九州北部や愛知では「きない」と言うところがあるらしい。「黄色」のことだ。(021117 加筆)





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