Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第235夜

教育を語る



 わが大学は去年、移転した。
 前の所在地は、23 区*1内であるにも拘わらず、3 つある最寄駅までは、どう行っても 15 分以上、という立地であった。まぁ不便といえば不便だが、俺自身は 15 分の徒歩は苦にならないので、なんてことはなかった。ただ、受験の時には、下見したにもかかわらず迷いそうになったし、学園祭に友人を呼ぼうとすると、大概、難色を示した。
 今の所在地はもっと不便らしい。私鉄の駅からバスで行くことになるらしいのだが、どういうつもりで土地選定したのやら。
 久しぶりに学校と方言。

 面白い単語を見つけた。
」である。
 蕎麦ではない*2。学校の話だ。
 記号で書くとわかる。
「×」、すなわちバツ印のこと。
 テストが帰ってきたときに「自信あったのに、かげつけらいでしまった〜」などと使う。
 恐らく「掛け算」の「かけ」から来たか、それと同根であろう。
 この「げ」は濁音である。鼻濁音だと「陰」「影」になってしまうので注意。

 そう言えば、テストの採点を「○/×」でやる先生、「○/レ」でやる先生、正答にのみ「○」をつける先生、誤答にのみ「×」をつける先生や「レ」をつける先生、とバラエティがある。
 「レ」は「チェック マーク」だから、承認である。それが「×」を意味するようになった経緯など、興味がある。流石に地域差ではないと思うのだが。
 そのおかげで、アンケートや申込書に記入するときなど、「ご希望の商品に印をつけてください」ならともかく、「○○をご希望ですか?」に「レ」をつけるのに躊躇してしまう。まぁ、流石に、拒否と受け取られてしまった、ということはないが。黙って○をつけりゃいい、という話もある。

 に、山形では丸付き数字を「いちまる」「にまる」を呼ぶ、という話をした。「いちかっこ」「にかっこ」というのもある。丸の中に“20”って書いてあったら「にじゅうまる」?
 学校は数十人単位で行動するから、誰か (影響力が強いのは先生だろうが) がある表現を使うとあっという間に伝わる。方言の衰退が言われる中で、「いちまる」や「にかっこ」が根強く残っているのはそのためであろう。勿論、学校というものが本質的に閉鎖社会である、というのも関係があるだろう。

 他に思いついたのを並べると「校下」というのもある。
「校区」に相当するものらしい。西日本の語彙のようだ。転じて、校外で行われる活動 (ゴミ拾いとか、流行の言葉で言えば「ボランティア」みたいなの) を「校下活動」なんて言ったりするらしい。それにしても、社会が学校の「下」にあるというのもすさまじい感覚である。
 すさまじいと言えば、「三校禁」という言葉。これもどうやら西日本っぽい。三つ以上の学校の生徒が集まることを禁止したものだそうだ。集まるとロクなことをしないから、ということだ。表向きは、学生運動近辺の時代の話らしいのだが、分割して統治せよ、という原則には叶っている。閉鎖社会だしな。
「放課後」が出たが、「放課」というのもあった。愛知県辺り。「放課後」から考えて、一日の授業が終わること、「終業」あたりかを思いきや、「休み時間」のことだそうな。「放課時間」と言ったりもする。
 どうやら「気づかない方言」の一つであるらしく、たまにニュースで記者あたりが使ってしまい、視聴者から突っ込まれたりするんだそうな。漢字で書けてしまうから。気づかないのも無理はないと思う。
 これに、「長放課」というのが加わる。昼休みのことか? 俺の小学校では、2 時間目と 3 時間目の間が 20 分と長かったが、そういうやつのことだろうか。「ながほうか」でいいのか?
 どうやら専門用語の「放課」というのもあり、それは「下校」という行為を指すらしい。わけがわからん。意味から考えれば、これが正統か。
放課」は面白いので、是非、検索エンジンで調べてみていただきたい。山ほど見つかります。*3

 俺も検索エンジンで調べたのだが、この辺の語彙に関してアンケートを募集しているページがあった。
 その回答で「変な言葉」「必要ない言葉」などという意見が並んでいたのだが、人が使っている言葉についてそういうことを言える感覚には驚いた。
 やはり違うということは罪であるらしい。閉鎖社会で教育した成果だろうか。




*1
 これは「固有名詞」だろうか。


*2
 最近は、「生そば」を読めないソバ屋の店員がいるらしい。


*3
 「放」が使われているのは、はやり、勉強は苦行であるという認識によるものだろうか。





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